言霊・続き
★手が治るまでしばらくの間ブログは過去記事の再録、または過去に書いて保留にしてあった分をアップしていきます。これは愛知県立高校の入試問題に採用されて、以前からお問い合わせいただいていたエッセイです★
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(続き)
インドという国は、いろいろな意味で一筋縄ではいかない。シリコンバレーもかなわないIT先進国でもあるし、三千年前と同じ方法でアトピーも癌もHIVまで治療してしまったりする。
「三千年前にはアトピーなんてなかったでしょうにね」と呟いたら、インド医学のドクターはこともなげに笑った。
「すべての原則は三千年前に完成されているのだから、我々はそれを応用するだけでいいのだ」
「でも、時代が変わって環境も生活スタイルも変わっていますね」
「人間の身体は三千年ぐらいで変わりはしない。朝は太陽とともに起き、夜は漆黒の闇につつまれて眠る……自然は自然なのだよ」
Nature is nature――自然は自然。
そして、地球の有りさまを短い間に大きく変えてしまった人間もまた、自然の一部でしかない。
悠久のときを生きるインドのひとたちにとって、三千年やそこらの時間はたいしたことないんだ……。この話を英国人の友だちにしたら、笑われた。
「マサコは、私が『歌舞伎はとても古いんでしょ?』って訊いたら『ああ、あれは江戸時代に生まれたからたいして古くない』って答えたのよ。三百年も前のことなのに!」
それから、彼女はしみじみと言ったものだった。
「日本人は百年単位のことは、簡単に『昔』としか言わない、とても古い歴史を持っている民族なんだなと思ったものよ」
三千年も三百年もそれほどたいした時間ではないのかもしれない。人間はそう簡単には変わらないのだから。
インターネット上からあふれてくる言葉のネガティブなエネルギーにひきずられ、仕事だからやめるわけにもいかず、ただただ苦しい思いをしていたわたしは、すがるような思いで本棚の前に立ち、数冊の本を手に取った。
谷崎潤一郎が日本を書いた「陰翳礼賛」、「源氏物語」の明石の章、田辺聖子さんの温かいココアのようないくつかの短編、大好きなアガサ・クリスティーのなかでも詩人の田村隆一氏翻訳の何冊か。
清らかな言葉、きれいな言葉、美しい言葉、やさしい言葉の数々が、ひっそりと本のなかでわたしを待っていてくれた。
十五歳で読んだときと同じように、心静かな時間をくれるたくさんの言葉たち。
言葉の持つ魂=エネルギーは、十年二十年どころか、百年たっても千年たっても変わらない。日本語の言霊に暴力的に打ちのめされたわたしを抱きとめてやさしくつつんでくれたのは、やっぱり同じ日本語の言霊だった。
美しい言葉たちにつつまれて少しずつ元気を取りもどしたわたしは、それから、Web上の言葉を読む姿勢を少し変えた。
怠惰、嫌悪、恨み、ねたみなどの感情の向こうにほんの少しでも小さな思いやりのかけらがありはしないだろうか、恥ずかしさのあまり自分を悪い方向によそおっているひとはいないだろうか……。
言葉だけにとらわれないで、その向こうに透けて見える感情を見逃さないようにと思う。インターネットのせいで人間がいきなり邪悪になるはずはない。だって、人間はそう簡単には変わらないのだから。
Nature is nature――自然は自然。
人間もまた自然の一部なのだから、そう、それほど簡単に変わりはしない。言葉の持つエネルギーに打ちのめされたわたしを救ってくれたのは、インド医学のこの教えだった。
アジアを旅行中に覚えたことはたくさんある。おいしいごはん、楽しい食卓、ごろりと寝ころがって気持ちのよい家、生活すべてをシンプルに暮らすヒント……そうして、それらは、わたしたちがいつも気持ちよく楽しく生きていける知恵のようなものだったのかもしれない。(終わり)(「モンスーンの花嫁」(PHP)より転載)
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★お約束して気になっていた「モンスーンの花嫁」の一文を骨折のおかげで(^_^; やっとアップすることができました。 どうかお一人でも当時の読者の方が読んでくださっていますように。
★このエッセイを書いたのは2002年でしたからもう7年前。43歳かな。過去に書いた本をあらためて読んでみると「ふーん、このときもこんなこと考えてたんだ、変わってないわー」と思うことが多くて面白いです。
すでに絶版になっていたもかかわらず、県立高校入試の問題に採用してくださった愛知県のご担当者様方に。ご縁をいただけたことに感謝いたします。
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☆さて17日は中野トナカイで鑑定。今月はこの1日のみです。現在夕方のお時間が空いております。 →さっそくご予約いただきましてホロスコープ鑑定は満席です、ありがとうございます(15日現在)。
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まだ右手が使えないのでほぼ左手だけでタロット展開しますから、内面に相当深く入る感じになります。恋愛とか仕事とか秘めた心模様--春に向けて、ご自分の本当の気持ちを探りにいらしてくださいね。
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